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札幌高等裁判所 昭和46年(行コ)1号 判決 1977年3月08日

控訴人 岡田利夫

被控訴人 札幌南税務署長

訴訟代理人 末永進 大井邦夫 ほか二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一  控訴人主張の請求原因一ないし三項の各事実は、当事者間に争いがない。

弁論の全趣旨によると、控訴人は、本件処分につき、昭和三八年一二月三一日現在における本件スプルースの在庫高の評価のみを争い、その余の課税根拠については争わないから、本件訴訟の争点は、右年末在庫高をいかに評価するかの点に尽きるというべきところ、控訴人は、同人がたな卸資産の評価方法を選定し届け出て承認を受けることをしていなかつたとの被控訴人の主張事実を明らかに争わないから、右事実はこれを自白したものとみなされる。そうすると、本件スプルースの年末評価額が売価還元法によつて評価されるものであること、及び売価還元法の意義・算定方法が被控訴人主張のとおりであることは、旧所得税法第一〇条の二、旧施行規則第一二条の一〇、第一二条の一一の規定から明らかである。しかして、控訴人が本件スプルースにつき品質・等級別出納帳等の記帳をせず、年末に実地たな卸をしていなかつたことは当事者間に争いがないから、税務当局としては、品質.等級別在庫の区分等を推計によつて算出せざるを得ないし、その推計が合理的であると認められる限り、右の算定結果を妥当なものとして是認すべきであることは、いうまでもない。

二  控訴人が昭和三八年中に本件スプルースを、被控訴人がその答弁及び主張の三項で主張したとおり仕入れ、販売したこと、その結果年末在庫数量が二、八七九石九〇であつたこと、右年末在庫数量のうち二〇パーセントの五七五石九八が建具向良質材で、残り八〇パーセントの二、三〇三石九二が不良材であつたことは、当事者間に争いがない。

1  右建具向良質材五七五石九八について

<証拠省略>を総合すると、控訴人は昭和三八年中に本件スプルースをA材三〇パーセント、B材四〇パーセント、C材三〇パ-セントの割合で仕入れたが(右事実は当事者間に争いがない。)、右のA材・B材・C材の品質表示は、公式の規格を示すものではなく、生産地であるアラスカにおいて業者間の取引上の慣習として使用されているものであつて必ずしも厳正なものでなく、個々的にみると、A材より良質のB材・C材があり、B材より良質のC材があつたのであるが、全般的にみれば、C材よりB材、B材よりA材が良質であつたこと、控訴人は本件スプルースを販売するため、みずからの判断で、これを一等ないし四等及び格外という五段階の品等に分け、うち一等ないし三等材につき、建具材としての独自の価格表(<証拠省略>)を作成したが、その価格表の規格にあてはめると、特殊のものを除き、ほぼA材は建具用一等材に、B材は建具用二等材に、C材は建具用三等材に該当したこと、控訴人は、審査請求時国税局協議団の担当協議官小畑惣次に対し、残存しているスプルースのうち二〇パーセントの良質材は、A材・B材がそれぞれ半分位ずつである旨説明していたことがそれぞれ認められる。<証拠省略>の結果中以上の認定に反する部分はいずれも措信できず、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。右事実によれば、昭和三八年末に残存していた本件スプルース中の良質材五七五石九八は、控訴人の規格でいう建具用一等材・同二等材がそれぞれ二分の一の二八七石九九ずつであつたと認定するのが相当である。

控訴人、本件スプルースの評価にあたつては日時の経過による品質の低下を考慮すべきである旨主張する。しかしながら、売価還元法は、たな卸資産評価の方法として考えられるところの、たな卸資産をその原価すなわち取得価額をもつて評価する原価法、一二月三一日におけるその取得のために通常要する価額をもつて評価する時価法、右前者による評価と右後者による評価のうちいずれか低い方の価額をもつて評価する低価法の三種の方法のうち、原価法に属するものであり、ただ、個々の原価を算定し難いために、一二月三一日における売価すなわち販売予定価額とその販売に因り通常生ずべき差益の率を媒体として、たな卸資産の実際の取得価額に近似する価額を推算し、これをもつてその取得価額とする方法であるから、たな卸資産の年末販売予定価額は、通常の品質のものが通常の方法により通常の売価で販売されることを前提にして計算して、はじめて原価法の一種としての売価還元法の趣旨に即することとなる。そうしてみれば、年末販売予定価額の算定が、当該資産の取得後の日時の経過による品質低下を考慮せず、あくまで取得当時の品質を保有するものとしてなさるべきであることは明らかである。なお、その結果、品質の低下した年末在庫品は取得原価のまま翌年に繰り越されることになるが、翌年以降において現実に販売されたときに、品質低下による値下り分が現実に評価されることになるのである。右のとおりであるから、控訴人の主張は採用することができない。

さて、<証拠省略>によると、前記認定のとおり控訴人は本件スプルース販売のため独自の価格表を作成しており、札幌国税局長に対する審査請求時にこれを資料として同局長に提出したのであるが、右価格表(<証拠省略>)によると、価格は引渡の地を基準として札幌・小樽等の道内六地区別に定められ、かつ、一・二等材ともその長さによつてそれぞれ六段階に区分されて定められていること、控訴人の販売先は主として札幌地区であつたこと、札幌地区における販売価格は地区別のそれの中では安い方に属すること、昭和三八年度末在庫の一・二等材の長さ別の割合を算定する資料は全く存在しないことが認められるので、これらによれば本件一・二等材は、前記価格表の札幌地区における価格にしたがい、かつ、長さ別価格の平均価格をもつて算定するのを相当とする。そうすると、一等材は石当り平均価格が金七、五三四円で、昭和三八年末の在庫二八七石九九の年末販売予定価額が金二、一六九、七一六円、二等材は石当り平均価格が金六、二八二円で同年末の二八七石九九の年末販売予定価額が金一、八〇九、一五三円となること計算上明らかである。<証拠省略>によると、控訴人は前記の審査請求時に「棚卸評価説明書」(<証拠省略>)を作成提出し、その中で東京におけるスプルースの価格を引用して自己の主張を裏づけようとしているが、弁論の全趣旨によると、控訴人は自己の作成した前記価格表(<証拠省略>)にしたがつて販売していたものと認められるから、右説明書における主張は採ることができない。

2  右不良材二、三〇三石九二について

<証拠省略>を総合すると、右にいわゆる不良材とは、腐蝕等によつて品質の悪化した材、すなわち一般的意味における不良品をいうものではなく、非上質材としての建具材(建具用三等材)と建築材に振り向けられるものとを総称する趣旨のものであつたが、その両者の割合は全く不明の状態にあつたこと、控訴人は昭和三八年中に同人作成の規格表でいう建具用三等材より品質の劣るものを長さを切りつめる等して同二等材・三等材として販売したことがあること、同様に、粗材のままでは建築材としての価値しか有しない材であつても、製材の仕方如何によつては良質部分を抽出して建具材となし得るものであり、事実控訴人は翌三九年に右のような品質の劣る粗材をみずから製材することによつてその一部を建具材として販売したことがあること、控訴人が昭和三九年度所得税確定申告の添付書類として被控訴人に提出した昭和三九年度売上一覧表(<証拠省略>)の「SP建築材」欄を集計すれば明らかなとおり、控訴人が昭和三九年に販売した建築用製材は、販売金額金三八、四四四、五二〇円、販売石数六、三三二石五三であるから、その平均価格は石当り金六、〇七〇円であり、当事者間に争いのない昭和三八年末の在庫石数、<証拠省略>から明らかな昭和三九年中の仕入石数、そのうち粗材のまま販売した石数、昭和三九年末粗材石数等から算出される粗材ひき立石数一七、四〇〇石一五をもつて、建具用製材販売石数・建築用製材販売石数・<証拠省略>から明らかな昭和三九年末製材在庫石数から算出される製材としての出来高石数一五、三九一石七二を除すことによつて、製材の歩どまりが八八パーセントと算出されるので、まず前記石当り平均価格金六、〇七〇円から控訴人が審査請求時に主張していた製材後の石当り製材加工費金七〇〇円を控除し、残額金五、三七〇円を、製材出来高一石に要する粗材一石一四(一石÷88%)で除した金四、七一〇円が建築用粗材の石当り単価と認めることができること、控訴人が昭和三九年に粗材のまま販売したスプルースの価格は、小口で札幌木エセンターへ販売したものが石当り金四、一六三円であるほかは、最も低価なもので東洋木材工業へ販売した石当り金五、〇一四円であること(<証拠省略>から算出)、控訴人作成の前記価格表によると、建具用三等材の札幌地区における販売価格は石当り金四、六四六円であることがそれぞれ認められる。<証拠省略>の結果、以上の認定に反する部分は、いずれも採用することができない。殊に、<証拠省略>の、八〇パーセントの不良材の大部分は建築材としか利用できないのみか建築材としても品質が悪く、また、昭和三九年中の建築用製材の販売価格は、いわゆる役物を製材したために高額になつている旨の部分は、なんら確実な資料に基づいたものとは認められないから、たやすく措信することができない。また、成立に争いのない甲第九号証にも右同趣旨の記載があり、前記証人岡田の証言によると、同書証は、右岡田が本件第一審判決後これを批判する意図で作成したものと認められるが、これまた右同様の理由によりたやすく措信することができない。以上の諸事実を総合考察すると、右にいわゆる不良材二、三〇三石九二は、中に建築材としか利用できないものがあるとしても、その全部を控訴人の規格でいう建具用三等材の石当り販売価格金四、六四六円で評価することは、特段不合理ではないと認められる。もつとも、<証拠省略>によると、昭和三九年一二月二五日現在在庫していた建築用製材の価格は石当り金四、七三〇円(4,675,480円÷(275.3218×3.57)であり、これより前記の製材加工費、歩どまり率にしたがつて粗材価格を算出すると、石当り金三、五三五円((4,730円-700円)×1.14)となるが、<証拠省略>によると<証拠省略>に記載されている価格は、控訴人にスプルースを販売した訴外三菱商事株式会社が、控訴人を援助するために同人から買い上げるための価格であつて、いわゆる市場価格ではないと認められるから、<証拠省略>の価格は右認定の妨げとなるものではない。他に右認定を左右するに足りる的確な証拠はない。しかして、右にいわゆる不良材の評価にあたり、日時の経過による品質の低下を考慮すべしとする控訴人の主張を採用することができないことは、前述したとおりである。そうすると、右不良材二、三〇三石九二の昭和三八年末の販売予定価額が金一〇、七〇四、〇一二円となることは計算上明らかである。

以上のとおりであるから、昭和三八年末に在庫した本件スプルース二、八七九石九〇の年末販売予定価額は、良質材五七五石九八が合計金三、九七八、八六九円、不良材二、三〇三石九二が金一〇、七〇四、〇一二円の総計金一四、六八二、八八一円となる。

三  右認定の年末販売予定価額、前述の如く当事者間に争いのない期首たな卸高・期中仕入高・期中売上高の数値を前記認定の算式にあてはめて売買差益率を算出すると、次のとおり一四・六三パーセントとなる。

1-(0+27,367,764)/(17,371,413+14,682,881)= 0.1463

次に右売買差益率と年末販売予定価額の数値を前記認定の算式にあてはめて年末評価額を算出すると、次のとおり金一二、五三四、七七五円となる。

14,682,881×(1-0.1463)= 12,534,775

そうであるから、その余の争点につき判断するまでもなく、札幌国税局長が本件スプルースの年末評価額を金一二、五三四、七七五円と認定し裁決したことは、正当として是認することができる。これに反する控訴人の出張は採るを得ない。

四  以上のとおりであつて、被控訴人が昭和四〇年八月二七日付でなした本件更正処分は、札幌国税局長が昭和四一年七月一二日付でなした裁決によつて減額された限度において正当であるから、控訴人の本訴請求は失当として排斥を免れず、これを棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。よつて本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 神田鉱三 落合威 山田博)

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